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相続税対策の破綻…録音テープで取引経緯を立証!
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相続税対策の提案
平成2年…東京都心部にいくつも不動産を所有する太郎さんは、81歳でした。太郎さんは心筋梗塞のため、入退院を繰り返しています。太郎さんはの長男は、「相続税」が心配なので、知人に銀行員を紹介してもらいます。
以下は、銀行員が提案した計画です。
- 10億円を借金して、新潟県の賃貸物件を購入する。
- 物件からの年間賃料収入は、4,000万円。
- 借入金の金利は7.3%で7,300万円、毎年の不足額(4,000−7,300)は銀行が追い貸し。
- 相続後、物件を売却して精算する。
相続税対策の破綻
平成2年3月…計画は、実行されました。賃貸物件だけでなく、自宅にも抵当権が設定されたようです。銀行員の相続税対策には、問題がありました。昭和63年に税制改正があり、不動産を購入しても、相続開始後3年間は相続税対策効果がなかったのです。そして、《太郎さんの3年以上生存の可能性》は、低かったようです。
太郎さんは、平成3年8月に死亡しました。相続税対策効果はなく物件価格は値下りして、返済は滞ります。
平成14年、太郎さんの長男は…物件を1.7億円で、自宅を1.4億円で売却し、残債の一部弁済に充当します。そして、銀行を相手に訴訟を起こすのです。
長男vs銀行
長男は…銀行員は税制改正について説明しなかったし、〈絶対に損はしない〉など、嘘八百!‥として、《銀行の詐欺》を主張しました。また、〈税制が改正されたことを知っていれば、銀行員が提案した計画は実行しなかった〉‥と、《錯誤による無効》も訴えています。
銀行は…〈太郎さんは元気だったので相続税対策とは露知らず〉‥と、『詐欺』を否定します。そして、税制改正については〈注意してれば分かるでしょぉ〜〉‥と、責任逃れです。
取引経緯の証拠
このような裁判は数多くあるのですが、《債務者サイド》の勝利は、困難を極めます。説明の有無などの、証拠がないからです。証拠がないため、最終的には、《銀行に有利な和解》で終わることが多いようです。
太郎さんの長男が起こした裁判では…銀行員が〈取引経緯は残してある〉‥と言ったはずでしたが、『取引経緯』は不明です。証拠がなければ、銀行の勝ちなのです。
しかし…高齢だった太郎さんは、自分の死後を案じていたのでしょう。《銀行員と長男との会話》を、録音していたのです。
取引経緯の判明
平成17年3月31日…東京高裁の判決で、太郎さんが録音テープに残した会話が、引用されました。
太郎さんは、長男に対して〈自分が死んだ後、どうすればうまくやれるのか〉‥など、念を押しています。また、銀行員には〈利息のことまで心配してもらった〉‥と、謝意を示しています。
銀行員は…〈借入金で土地を購入すると、購入価格と路線価の差の分だけ相続税課税価格が下がる〉‥という『相続税対策』を、具体的に説明していました。しかし、税制改正については説明していないという事実が、録音テープに残っていたのです。
判決
一方…銀行員が騙そうとした証拠や、長男の目的が相続対策にあったという証拠は、録音テープに残っていません。判決は、〈立証できないので詐欺とはいえないし、動機の錯誤として無効にすることもできない〉‥という結論でした。
しかし、銀行は、相続税対策効果がないことを長男に説明するべきでした。裁判官は、〈銀行には信義側上の義務があるのだから、損害賠償をしなさい〉‥という結論も出しています。太郎さんが残した録音テープが、生きたのです。
ただし、長男にも〈税理士と相談すべきだし、早期に売却交渉すべきだった〉‥など、落ち度があります。判決は、利息分・売却損分・失った自宅分等について、銀行に対する9億円余の損害賠償を認めています。しかし、長男の落ち度を認めて、3割の過失相殺をしたのです。
録音テープで立証する時代
長男が起こした裁判は、『録音テープ』がなければ、違う判決だったかもしれません。個人が銀行相手に訴訟を起こして勝てるのは、このように、《録音テープが存在する場合》のようです。
銀行員に気付かれないように、隠れて録音や撮影をすることが、必要な時代になってしまったのです。イヤな時代ですね…。しかし、その《録音や撮影》が、我が身を守ってくれるのです。