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不動産の代償分割は有利か?…売却時の譲渡税に大差!
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10人で遺産分割
1989年のある相続で、遺産である時価1億円の土地建物が問題となりました。被相続人には子が無く、相続人は、配偶者と兄弟です。この土地建物を、兄弟10人で分割することにしました。
仲のよい兄弟でも、「相続」ともなればモメて紛糾します。長兄が、分割の取りまとめに奔走し…〈売却してお金で分けよう〉という結論に至ります。10人の共有ということで保有し続けても、問題を先に延ばすだけですから。
登記よりお金?
さて、具体的にどう実行するかで、意見が割れます。長兄は、〈各人が持分10分の1ずつ共有の相続登記をしてから一緒に売却しよう〉と、主張します。
しかし、他の兄弟は…〈長兄が一人で相続して、代わりに1,000万円ずつの現金が欲しい〉‥として、同意しません。
そして、この遺産分割の問題は、裁判所の調停に持ち込まれたのです。
和解と売却
長兄は、調停委員及び裁判官(家事審判官)から…〈長兄が遺産を全部取得して売却代金相当額を代償金とすれば、長兄の主張と実質的に変わらない上、登記手続が簡便で買主も安心である〉‥と、言われました。
そして、相続開始から3年後、言われた通りに実行します。他の兄弟に、現金で1,000万円ずつ合計9,000万円を支払って…土地建物を単独で相続した上で、この土地建物を1億円で売却したのです。
代償分割
長兄は、〈各人が1,000万円分の不動産持分を相続してそれを1,000万円で売却する〉という主張でした。対する他の兄弟は、〈各人の不動産1,000万円分は長兄が相続する代わりに現金で1,000万円を受け取る〉ということを、要求しました。
他の兄弟の考えを『代償分割』と呼び、この現金を『代償金』と呼びます。現金が、10人に1,000万円ずつ入るのは、どちらも同じです。しかし、その後の税金が異なってきます。
譲渡税
「相続税」のこともあるでしょうが、ここでは、「譲渡税」が問題になりました。不動産を売却すると、「譲渡税」が課税されます。
長兄の主張通り、10人で相続してから一緒に売却すれば、10人とも課税されます。しかし、他の兄弟は、現金を受け取りました。不動産については、相続も売却もしていないため、「譲渡税」を課税される心配がありません。
つまり、不動産を売却したのは長兄のみであり、長兄一人が「譲渡税」を課税されるわけです。
長兄vs税務署
長兄は、他の兄弟に支払った9,000万円を原価として、譲渡所得の申告をしました。兄弟から9,000万円で買い取ったものを、1億円で売ったのだ…と、いうわけです。
しかし、税務署は…〈遺産分割のために支払った9,000万円は、取得費ではないから、原価と認めず全額課税〉‥と、判断します。9,000万円が原価でなければ、売却額1億円に対する「譲渡税」は、2,500万円にもなります。
長兄は、不動産の売却で1億円を受取りましたが、他の兄弟に9,000万円を支払っています。手元には1,000万円しかないのに、2,500万円の「譲渡税」が課税されるわけです。
単独は不利?!
税務署と争うことになった長兄は、国税不服審判所へ訴えます。しかし、審判所の回答にも、温情はありません。
1997年12月15日、国税不服審判所は…〈長兄が他の相続人に1,000万円ずつ代償金を支払って単独で土地建物を相続することは、長兄も含めた相続人全員で決めた事実であるから、長兄のみの課税もやむなし〉‥という裁決をしました。(金額等内容を読みやすいように変えています。)
遺産分割で注意すべきはその後の税金ですから、「相続税」だけでなく、色々な税金について考慮しましょう。