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会社借入金返済のための不動産売却を非課税にするには
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信用するのは何でしょう?
銀行から借金をしている会社があります。その会社が大企業でなければ、社長個人が『連帯保証人』となっていることでしょう。
銀行が中小企業の融資申込みを受けた場合、もれなく社長を「連帯保証人」に仕立て上げます。そして、社長個人が所有する不動産に「抵当権」を設定したところで…ようやく、貸し付けを実行してくれます。
銀行は、会社を信用してお金を貸しているのではありません。「連帯保証人」である、社長個人の不動産の担保価値を信用しているワケです。
担保の売却…譲渡税発生!
やっとのことで、銀行から借り入れをした会社でしたが…業績が、下降の一途を辿ってしまいます。銀行は、(債権回収には、カンケーねぇ!)‥と、いたって事務的です。「担保の土地を売れば、返済できますヨ〜。」‥と、要求してきました。
社長は「ソレしかないよね…。」‥と、素直に従います。そして、1億円の土地を売却して、借入金の全額を弁済しました。
さて、〈コレで一件落着♪〉…ではありません。不動産を売却すれば、「譲渡税」がかかります。1億円の譲渡税率は、20%です。しかし、2,000万円近くの税金を納める資金はありません。どうしましょう…。
保証債務履行のための譲渡…非課税
会社の借金返済のための不動産売却は、非課税にしてくれないかなぁ‥と願う、社長サンたち…。その願い(?)を実現してくれる《特例》が、あるのです。
不動産を売却すれば、フツーなら譲渡課税のところ…〈『保証債務』の履行に限り、「譲渡税」は無しヨ♪〉‥という、特例です。「保証債務」を履行するための不動産売却であり、求償権を行使できない場合…税務では、〈売却は無かった〉とみなされます。
「保証債務」である1億円を弁済するために土地を1億円で売却して、その1億円を会社から回収することが不可能ならば、1億円の売却は無かったコトになるのです。そして、売却(譲渡)が無いから譲渡課税も無い…というワケです。
債務整理のための譲渡…非課税に非ず
「保証債務」を履行するために不動産を売却した場合は、自分が経営する会社の「保証債務」であっても、「譲渡税」は非課税になります。ただし、社長個人の借金返済のための不動産売却であれば、譲渡課税となります。
《自分の会社の保証債務》はOKですが、《自分の個人的債務》はNGなのです。もっとも、〈借金が膨大になって『破産』した〜〉‥となれば、《非課税の状態》と言えるかもしれませんね…。
さて、「譲渡税」を非課税にしてくれる、《保証債務の履行のための不動産売却》なのですが…税務を十分に認識した上で、実行することが必要です。
保証債務履行のためなのに…譲渡課税?!
債権者から、『保証債務履行の催告』を受けたA社長。「保証債務」の履行のために、資産を譲渡(売却)しました。《会社の借金返済のための資産譲渡》は、非課税♪
ところが、この《保証債務履行》による非課税が、認められない場合があるようです。
まず、『保証債務履行の催告』の内容です。資産の譲渡前の時点で…A社長が「保証債務」を履行する義務は、確実かつ具体的なものではありませんでした。また、債権者が、社長に対して「保証債務」の履行を求めていた事実は無かったのです。
つまり…〈「保証債務」の履行をしなければならない状況とはいえなかったA社長が、返済とは無関係に資産を譲渡した〉‥というワケです。
催告と請求
A社長は「保証債務」を履行するために資産譲渡をしましたが、「譲渡税」の非課税は認められませんでした。A社長は、〈会社の返済が滞った場合は社長に弁済してもらいますヨ〉‥という債権者の《催告》を…〈会社の代わりに早く返済して!〉‥といった《請求》であると、早合点したのでしょうか?(日本語は、難しい…)
お金を借りている側からすれば…《催告》も《請求》も、異口同音に〈貸した金返せ〜〉‥と、迫っていると思うでしょう。でも、《請求された証拠》がなければダメです。
A社長が資産譲渡をする前に、債権者から『保証債務履行の請求』という文言を明記した文書を受け取っていたのであれば、「譲渡税」は非課税だったかも…。
譲渡代金の行方
次に、お金の流れです。A社長は、「保証債務」の履行のために、自分の資産を譲渡した代金を会社に貸し付けました。
会社の経理上、そのお金はA社長からの「借入金」です。会社はこの「借入金」を元にして、返済期限がくる前に、債権者からの「借入金」を返済することができました。
会社は債権者からの「借入金」を債権者に返済し、A社長から借り入れをしています。そして、A社長と債権者の間には、金銭の授受関係はありません。
A社長が〈債権者への返済とは無関係に資産を譲渡した〉‥とする疑惑(?)は、さらに深まります。会計処理の上では、自分が経営する会社に資金を投入しただけですから…。
領収証の宛名
A社長は、《保証債務履行》のために資産譲渡をしたのですが、「譲渡税」の非課税が認められません。会社が「借入金」を返済した際に債権者が発行した領収証には、A社長の名前も「保証債務」の文言も無かったのです。
A社長の資産譲渡によって会社が「借入金」を返済できたワケですから、実質的には《保証債務履行》なのでしょう。しかし、「保証債務」であるならば、お金の流れが〈会社から債権者へ〉…ではダメなのです。
A社長が資産譲渡の代金を会社に貸し付けず、債権者に「保証債務」を履行して、《A社長宛・保証債務履行弁済金として》‥という領収証があれば、非課税だったかも…。
外も中も保証債務で!
以外なことに(?)、実状で判断してくれるケースも多いのが『税務』です。しかし、この《保証債務履行》による「譲渡税」の非課税に関しては…表面も実質も、書類とお金の流れが《保証債務履行》であることが必須なのです。
債権者側は、個人の『保証債務弁済金』より会社の『返済金』の方を好みます。しかし、少しでも(ヤバそう?)と思ったら…「担保の土地を売れば、返済できますヨ〜。」‥と、早めに《催告》するかもしれません。
そして、「ソレしかないよね…。」‥と、なるのです。本当に〈ソレしかない〉場合でも、アセって《非課税》をパーにしないよう、慎重に実行しましょう。
(『平成10年1月9日・国税不服審判所裁決』より)